東京高等裁判所 昭和25年(ネ)44号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
原審における証人森田平次郎の証言並に被控訴人法定代理人岩田美濃里本人の供述によると、岩田美濃里は昭和二十二年六月八日に被控訴人を分娩した事実を認めることができる。
而して、原審における証人小林恵三、同森田平次郎の各証言及び被控訴人法定代理人岩田美濃里本人の供述を綜合すると、右岩田美濃里は昭和十五年六月頃から控訴人の妾となり、横浜市中区元町五丁目二百十八番地に一戸を構え、被控訴人を分娩するまで控訴人から生活費の扶助を受けてきたが、右のように控訴人と情交関係をつづけている間に被控訴人を懐胎しこれを分娩するに至つた事実並にその間岩田美濃里は控訴人以外には他の男と情交関係を結んだことのない事実を認めるに充分である。右認定に牴触する原審証人加藤幾太郎の証言はにわかに措信しがたく、他に該認定を覆すに足る確証はない。
右の事実によると、被控訴人は控訴人と岩田美濃里との間に生れた子であることが明白である。
控訴人は、仮りに被控訴人が控訴人の子であるとしても、昭和二十二年十月二十七日に被控訴人の母美濃里と控訴人との間において、被控訴人の控訴人に対する認知請求は被控訴人が意思能力者になるまで留保するとの裁判外の和解契約が成立し、更に同日被控訴人に関する紛爭は金三万円を控訴人から右岩田美濃里に交付することによつて一切解決するとの裁判上の和解ができ、即日控訴人は岩田美濃里に金三万円を交付したから、同人が被控訴人の法定代理人として本訴請求をなすのは失当であると抗爭する。
よつて按ずるに、控訴人の右主張事実は乙第一、二号証、同第四号証の一、二(いずれも弁論の全趣旨に徴して眞正に成立したものであると認められる)、原審における証人桃井[金圭]次の証言並に被控訴人法定代理人岩田美濃里本人の供述に照らしてこれを認めることができるけれども、子の認知請求権は親族法上認められた権利であつてその行使に制限をつけたり、或はこれを任意に処分するというようなことはできない性質のものであるから、子の母と、認知の求められている相手方との間において、認知請求権の行使を子が意思能力者となるまで留保するとか、又は抛棄するというような趣旨の契約をしても、かゝる契約は法律上無効であつて、被控訴人に対してはその効力がないものと解せねばならない。從つて被控訴人があらためて認知請求権を行使するについて何等妨げとなるものはない。控訴人の右抗弁は採用することができない。
更に控訴人は、本訴請求は信義に反し、権利の濫用であると主張するけれども、右のように認知請求権の制限乃至抛棄の契約無効と解する以上、被控訴人の母が右契約の対價として控訴人から金銭の交付を受けたとしても、本訴の提起を以て直ちに信義に反し権利の濫用であると断定することはできないから、控訴人の抗弁は排斥するの外なし。
果して然らば、被控訴人が控訴人の子であることの認知を求める本訴請求は正当である。
これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四條、第九十五條、第八十九條に則り主文の如く判決する。
(裁判官 浜田潔夫 牛山要 武田軍治)